基本情報
学名:Gallirallus okinawae
和名:ヤンバルクイナ
中国語名:沖繩秧雞、山原秧雞
英語名:Okinawa rail
原産地:沖縄島北部固有種
生態・特徴
1. 外観
ヤンバルクイナは全長約35cm、体重約450gで、頭頂部から尾羽にかけては深いオリーブ色、顔は黒色です。目の後ろから首にかけて白い筋があり、脚と嘴は鮮やかな赤色をしています。腹部には白黒の縞模様があり、雌雄の外観に大きな違いはありません。
ヤンバルクイナは1981年に新種として発表されました。それ以前、地元では「アガチャー(慌て者)」や「ヤマドゥイ(山の鳥)」と呼ばれていましたが、和名は、やんばる地域の固有種であることを強調し命名されました。
ヤンバルクイナは国頭村の村の鳥であり、国の天然記念物(文化財保護法)、国内希少野生動植物種(種の保存法)、および絶滅危惧種に指定されています。

2. 習性
ヤンバルクイナは主に昼行性で、日中は森の中で餌を探したり、水辺で水浴びをしたりします。夜間はハブなどの天敵から逃れるため、樹上で眠ります。ヤンバルクイナは丈夫な脚と力強い爪を持っており、樹皮を掴んで木を登ることができます。そのため、樹皮が深く割れたリュウキュウマツや、イタジイなどの木は、彼らのお気に入りのねぐらとなります。
食性は雑食性で、ミミズ、トカゲ、ドングリなどの植物の種、カタツムリなどを食べます。森の中で真ん中が割れた大きなカタツムリの殻を見つけたら、それはヤンバルクイナが食べた痕跡です。彼らにはお気に入りの「カタツムリ叩き石」があり、同じ個体が特定の石にカタツムリを運んで叩き割るため、石の周囲には殻が散乱しています。

ヤンバルクイナは地上に営巣し、3月下旬から6月にかけて繁殖します。一度に3〜5個の卵を産み、約3週間の抱卵を経て孵化します。生まれたばかりの雛は全身が黒く、親鳥が共同で子育てを行います。約2ヶ月後には成鳥と同じ色になり、独立して行動するようになります。

3. 進化
ヤンバルクイナの近縁種は太平洋の島々に分布しています。このため、ヤンバルクイナの祖先は飛行能力を持つクイナの一種であり、異なる島々へ拡散したと考えられます。捕食者のいない小さな島という環境下で、飛ぶ必要がなくなったために飛ばないクイナへと進化したと推測されます。各島に分布する飛ばないクイナは、何度も独立して起こった収斂進化の結果である可能性があります。
「やんばる野生生物保護センター」に展示されているヤンバルクイナの骨格標本を見ると、一般的な鳥類のような発達した胸骨や竜骨突起がありません。胸骨は胸筋が付着する場所であり、その中央にある山のような突起を竜骨突起と呼びます。これは飛行のための大きな胸筋を支える役割を果たします。ハトのように長距離を飛ぶ鳥では非常に発達していますが、ヤンバルクイナの骨格では、胸骨が小さく、竜骨突起も目立たず、体に対して翼が非常に小さく、脚が長いことがわかります。この構造は、彼らが飛行を捨て、地表の歩行や木登りに適応したことを示しています。



ヤンバルクイナは現在、沖縄島北部にのみ生息していますが、沖縄島南部・八重瀬町の港川フィッシャーでは、約2万年前の地層からヤンバルクイナの化石が発見されています。骨を比較した研究者は、これらの骨が現生ヤンバルクイナの骨格と形態的に同じであり、祖先や別の種のものではないと結論づけており、当時のヤンバルクイナが沖縄島全体で繁殖していたことがわかります。現在、沖縄島中南部でヤンバルクイナが絶滅した原因も、人類の生活圏の開発による生息数の激減であると考えられています。
化石の出典:松岡廣繁・長谷川善和(2018)「港川人」周囲の鳥類:琉球列島中部、沖縄島南部の港川フィッシャー産後期更新世鳥類化石群. 群馬県立自然史博物館研究報告, 22, 1–21.
ヤンバルクイナはどこから来たのか
中琉球の固有種には、かつて大陸に広く分布し、島にだけ生き残った「遺存固有種」が多く、ケナガネズミやアマミノクロウサギがその例です。ヤンバルクイナはそれとは由来が異なり、南から沖縄島へ分散してきた種です。
DNAに基づく系統解析によると、これらのクイナの飛べる祖先は、フィリピンからインドネシア東部あたりを出発し、海面が上下をくり返した更新世に、波のように太平洋の島々へ渡ったと考えられています。多くの島には肉食性の哺乳類の捕食者がおらず、飛ぶことが生き残りに必須ではなくなったため、それぞれの島で祖先のクイナが独立に飛べない種へ進化しました。
沖縄島にももともと在来の食肉目(肉食性の哺乳類)はおらず、環境省の資料では、ヤンバルクイナの祖先は南から沖縄島へ渡ってきたと考えられています。それがいつだったのかは確定しておらず、環境省の資料では数万年前とされる一方、DNA研究では太平洋のクイナ類のグループ全体の出現はもっと古く(約84万〜140万年前)と推定されており、著者もこの年代推定には不確実性があると述べています。
後期更新世から完新世にかけて人類が島々へ次々と到達すると、飛べないクイナは容易に捕らえられる獲物となり、人類が持ち込んだイヌ・ブタ・ネズミなどによる捕食も加わって、そのほとんどが絶滅しました。下の地図は各島の現存種数と絶滅種数、表は現存種をまとめたものです。論文の図に示された現存11種のうち7種はIUCNで危急(VU)以上に分類されており、ヤンバルクイナもその一つです。

参考資料(説明と地図)
- Kirchman, J. J. (2012). Speciation of flightless rails on islands: A DNA-based phylogeny of the typical rails of the Pacific. The Auk, 129(1), 56–69. https://doi.org/10.1525/auk.2011.11096
- 環境省:ヤンバルクイナ保護増殖事業計画
- 環境省:奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島(遺存固有種と新固有種の解説)
- Natural Earth(地図データ、パブリックドメイン)
- 各現存種の分布については、下の折りたたみ内「参考資料(表)」をご覧ください。
現存する飛べないクイナ(クリックで表と参考資料を表示)
| 学名(英名) | 分布 | 食肉目 | 現存個体数 | IUCN カテゴリー |
|---|---|---|---|---|
| Gallirallus okinawae ヤンバルクイナ(Okinawa rail) | 沖縄島北部(やんばる) | 在来:なし 外来:ジャワマングース、ネコ、イヌ | 約1,345羽(2023年、環境省) | EN(危機) (環境省:絶滅危惧IA類(CR)) |
| Gallirallus calayanensis Calayan rail | フィリピン、カラヤン島(バブヤン諸島) | 外来:ネコ、イヌ | 成鳥2,500〜4,300羽 | VU(危急) |
| Gallirallus owstoni グアムクイナ(Guam rail) | もともとはグアム島固有。現在はロタ島とココス島に野生個体群(再導入) | ロタ島に約200羽、ココス島に約60〜80羽(2019年) | CR(深刻な危機) (2019年に野生絶滅から変更) | |
| Gallirallus wallacii invisible rail | ハルマヘラ島のサゴヤシ湿地 | 外来:イヌ(ときどきクイナを捕らえる) | 成鳥2,500〜9,999羽 | VU(危急) |
| Aramidopsis plateni snoring rail | スラウェシ島(ブトン島を含む)の低地〜丘陵の森林 | 在来:あり(例:スラウェシパームジャコウネコ) 外来:ネコ、イヌ | VU(危急) | |
| Megacrex inepta New Guinea flightless rail | ニューギニア島の低地(北岸と南東部) | 在来:なし 人が持ち込んだもの:イヌ、ネコ | LC(軽度懸念) | |
| Gallirallus insignis pink-legged rail | ニューブリテン島 | 成鳥約1,500〜7,000羽 | NT(準絶滅危惧) | |
| Gallirallus woodfordi Woodford’s rail | ソロモン諸島のガダルカナル島とサンタイサベル島 | 在来:なし | LC(軽度懸念) | |
| Gallirallus rovianae Roviana rail | ソロモン諸島西部(ニュージョージア島) | 在来:なし | 2,500〜9,999羽(古い推定) | LC(軽度懸念) |
| Gallirallus sylvestris ロードハウクイナ(Lord Howe woodhen) | ロード・ハウ島 | 外来:ネコ(かつて生息。1976〜1982年に駆除事業) | 少なくとも1,638羽(2024年12月) | EN(危機) |
| Gallirallus australis weka | ニュージーランドの北島と南島(スチュアート島の個体群は再導入) | 在来:なし 外来:オコジョ、フェレット、ネコ、イヌ | 成鳥71,000〜118,000羽 | VU(危急) |
表の注:学名はeBirdおよびAviListの体系に従っています。この体系では Aramidopsis plateni と Megacrex inepta は Gallirallus 属に含まれません。食肉目の欄は出典が見つかった項目のみを記載しており、空欄は「未確認」を意味し、「いない」という意味ではありません。個体数は出典・調査年・方法がそれぞれ異なる推定値で、空欄は信頼できる数値がないことを示します。IUCNのカテゴリーは更新されることがあるため、最新の情報はIUCNのウェブサイトでご確認ください。
参考資料(表)
- 環境省:ヤンバルクイナ保護増殖事業、生物多様性センター:ヤンバルクイナ(レッドリスト/レッドデータブック)
- IUCN Red List(最新のカテゴリーは同サイトでご確認ください)
- BirdLife DataZone: Drummer rail (invisible rail)
- Wikipedia:Okinawa rail、Calayan rail、Guam rail、Snoring rail、New Guinea flightless rail、Pink-legged rail、Woodford’s rail、Lord Howe woodhen、Weka
- BirdForum Opus: Roviana Rail
- Smithsonian National Zoo: Guam rail
- NSW Government: Lord Howe woodhen population survey
- 食肉目に関する情報:Fauna of New Guinea、List of mammals of the Solomon Islands、Wildlife of New Zealand、Sulawesi palm civet
- Kirchman (2012)(種のリスト)
ヤンバルクイナが直面している危機
1. 外来種マングース
かつて沖縄では、ハブを減らす目的で東南アジアからマングースが導入されました。しかし、北部へ拡散したマングースはヤンバルクイナを捕食し、その数は急速に減少しました。「マングースバスターズ」の尽力により、現在やんばる地域のマングースは大幅に減少し、ヤンバルクイナの生息数は回復傾向にあります。
2. 外来種ノネコ・ノイヌ
捨てられた飼い猫や飼い犬が野生化し、ヤンバルクイナなどの野生動物を捕食することがあります。現在、沖縄県はマイクロチップの装着や不妊・去勢手術の推奨などの対策を積極的に行っています。山域でノネコやノイヌが発見された場合、罠で捕獲され、国頭村のウェブサイトで公告されます。飼い主が見つからない場合は里親募集が行われます。
3. ロードキル(交通事故)
統計によると(2011〜2026年、10月まで)、ヤンバルクイナの交通事故は毎年約19〜47件確認されており、2026年は1〜10月だけで40件と、2015年以降のどの通年よりも多くなっています。月別では繁殖期の5月が最多で、次いで6月、4月です。この時期、成鳥は雛に餌を与えるために頻繁に道路脇へ現れるため、車に轢かれるリスクが高まります。環境省も、早朝と夕方はヤンバルクイナの活動が活発な時間帯なので特に注意が必要としています。やんばる地域を走行する際は、時間帯を問わず細心の注意を払い、ロードキルを防ぎましょう。
資料引用:やんばる世界遺産センター ウフギー自然館:ロードキル情報(2011〜2026年、筆者集計)、環境省:ヤンバルクイナの交通事故増加に関する報道発表(2014年)


もし怪我をしたヤンバルクイナを発見した(あるいは誤って衝突してしまった)場合は、すぐに「やんばる野生生物保護センター(0980-50-1025)」または「NPO法人 どうぶつたちの病院 沖縄(090-6857-8917)」へ連絡してください。その際、発見場所を伝えてください。県道沿いであれば、青い標識の県道番号(例:県道70号)、地点名(例:楚洲)、キロポスト(距離標)が目安になります。


ツアー中に撮影した観察記録写真と撮影日
【ヤンバルクイナツアー】では、夜間に樹上で休息するヤンバルクイナを頻繁に観察することができます。過去の経験から、冬の気温が低い時期や、4月の抱卵期に入ると、彼らはあまり樹上で夜を過ごさなくなるため、観察できる機会は相対的に少なくなります。
樹上の休息を最も観察しやすい季節は、雛が木登りを覚える8月と9月です。この時期は、低い枝に留まっている幼鳥を見られるチャンスがあります。2025年8月17日の夜間には14羽、2025年9月16日の夜間には18羽のヤンバルクイナを観察しました。
また、4月から7月の【野鳥観察】では、日中に子育てをする様子を観察できる機会があります。



